TVドラマ『やすらぎの郷』とお墓の話 その2

TVドラマ『やすらぎの郷』とお墓の話 その2
~芸能界のドンで元海軍参謀。その最期は水葬だった~

 
 
今年4月からスタートした、ドラマ『やすらぎの郷』(TV朝日系列)が9月で放送を終えました。
老いや死がテーマながら、ドラマの原作・脚本を担当する倉本聰氏と歌手の中島みゆきがセリフなしの夫婦役で登場したりと、各所に遊び心がみられた作品でした。
 
タイトルにもなっている「やすらぎの郷」とは、高齢になった芸能人やTV番組の制作に携わってきた人だけが無償で入れるという、架空の老人ホームの名称です。
施設の運営費や人件費などを負担しているのがオーナーの加納栄吉(役名)。大手芸能事務所の元会長で、かなりの資産家・・・ということはわかっていましたが、当人が姿を現したのはほとんどドラマの終盤でした。
 
ある日、瀕死状態にある加納に呼ばれ、石坂浩二演ずる主人公の菊村栄が会いに行きます。そこで菊村は老人ホームを造ったいきさつを聞くことができましたが、加納は息絶えてしまいます。
 
そして翌日。本人の希望通り、その遺体は小型船に乗せられ、海へと葬られます。施設の創設者で芸能界のドンは水葬に付されました。
 
海や川に遺体を沈めたり、流す葬法を「水葬」といいます。
チベットでは、疫病で亡くなった人や子どもを産めなかった女性を皮の袋に包んで水葬を行います。
またポリネシアなど、死者を舟に乗せて海に流す風習が見られる地域もあります。
 
日本では現在、遺体を火葬後に埋葬することが一般的ですが、船員法十五条により、航行中の船内で乗員が死亡した場合、「船舶が公海にあること」「死亡後二十四時間を経過したこと」「衛生上死体を船内に保存することができないこと」などの条件(船員法施行規則4条)付きで水葬が認められています。
 
また内容が多少異なりますが、自衛隊でも水葬に関しての規定があります。ただ戦時下ではない現在、水葬の実例はまれのようです。
では、多くの命が失われた先の大戦ではどうだったのか。
 
太平洋戦争で海軍の艦長または司令の任務に就いていた、原為一(はら・ためいち)著『帝国海軍の最後』には、その一端が記されています。
 
第三次ソロモン海戦(1942年11月)で、原氏が艦長だった連合艦隊の駆逐艦天津風は、米艦隊の1隻を撃沈、1隻を撃破しますが反撃も受けます。
「猛烈なる砲撃を加えているうちに、われもまたいつの間にか敵弾を受け始め、被害続出、艦内各所に火災が起こった。(中略)艦内いたるところ、愛する部下の肉片、屍体が散乱し」という状況下で乗員40数名を亡くします。
原氏はこの時の心情を「つくづくわが身の未熟を痛感」「まさに断腸の思い」と綴っています。
 
なお、この戦いでの連合艦隊全体の戦死者及び行方不明者は801名に及んだと言います。
その後、天津風は撤退し、40数名もの死者を弔います。
 
「尊い遺骸を湯水できれいにふき清め、白布を覆って、おもりをつけ、総員整列黙禱のうちに、『君が代』のラッパを吹奏しつつ、あおく清くすみきった南太平洋の海深く水葬に付したのである。艦はなおしばらくその場に丸い円を描きながら、踏みとどまって永遠の別れを惜しんだ。」
太平洋戦争の戦没者約310万人のうち、海外戦域で亡くなった方は約240万人。未だ収容されていない遺骨は約113万柱に上ります。
(平成29年3月31日現在『海外戦没者遺骨の収容状況』厚生労働省)
 
「やすらぎの郷」のオーナー加納は、芸能界のドンであると共に、元日本海軍の参謀という設定がされていました。世界各国で戦死者たちの遺骨収集をしていたことも明かされます。そして、最期は敬礼の仕草を見せながら亡くなっていきました。
敬礼、水葬を望んだこと。その心は、大戦で逝った部下や同僚に向けられていたでしょうか。
 
老いることの現実、人生の締めくくり方、TV業界への提言・苦言。さまざまな内容が盛り込まれた今回のドラマですが、なぜ主要人物の一人を「元海軍参謀」としたのか。その最期を、今ではほとんど行われることのない水葬としたのか―。
 
「私たちはあの戦争で戦い、亡くなっていった人たちの存在を忘れていないだろうか」。
そんなこともまた、この作品が発したメッセージの一つではなかったかと思います。
 
柿ノ木坂ケイ

>柿ノ木坂ケイの「ちょっと気になるお墓の話。」一覧へ戻る

柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。