ダリのお墓がある、意外な場所とは?

ダリのお墓がある、意外な場所とは?


思いもがけず、約30年ぶりに墓から掘り起こされた心境は、目をひんむいた例の表情のごとく、驚きだったでしょうか。

ぐにゃりと曲がる時計が描かれた『記憶の固執』など、多くの作品で知られる芸術家のサルバドール・ダリ氏。結婚はしていましたが、血のつながった子どもはいないとされていました。
ところが、彼の娘だと主張する女性の申し立てを受け、今年6月スペインの裁判所が、DNA鑑定のため、ダリの遺体を掘り起こすように命じたのです。

「ダリの娘」と名乗ったのはマリア・ピラル・アベル・マルティネスさん。
家政婦として雇われていた母親がダリと関係を持ち、自分が生まれたと説明。祖母からは「お前の父親は偉大な画家だった」と聞かされていたといい、母親もそれを認めたとのこと。自分でもダリの娘であることは「直感でわかる」としていました(アベルさんの職業は占い師です)。

もし彼女がダリの娘であることが証明されれば、その遺産4億ユーロ(約520億円)の25%を引き継ぐ権利があるとの報道が注目を集めました。

そして9月。DNA鑑定の結果、「女性とダリの間に親子関係はない」ことが判明しました。

ピンと上向きに固められたヒゲがトレードマークだったダリ。なかなかのイケメンで、女性関係は盛んだったのではというイメージがあるかもしれませんが、一人の女性を愛し続けたことで知られています。

ダリがガラという女性と出会ったのは、25歳の時でした。ガラにはこの時、夫がいましたが、後にダリと再婚することになります。
ガラはダリの作品がまだ世に知られていない頃から、その宣伝や売り込みもしていたといいます。
伴侶であり、仕事上のパートナーでもあった彼女への思いは強く、「ガラ以外はすべて敵」「私の全ての絵画はガラの血で描かれている」との言葉を残しているほどです。

また1982年ガラが亡くなった後、ダリの生活は荒れ、自殺未遂を図ったともいわれています。

実際のところ「ガラ一筋」だったかどうかはわかりませんが、今回訴えた女性との生物学的親子関係は否定される結果となりました。

ところで、今回の一連の騒動を伝える記事に、遺体からDNA検体を採取するため、ある場所に棺が運び入れられる写真が掲載されていました。
その場所は墓地ではなく、美術館でした。

彼の生誕地、スペイン北東部のフィラゲスにある「ダリ劇場美術館」は1974年に開館しました。ダリはこのとき70歳。内戦で廃墟となっていた市民劇場の建物を、彼自身が一から美術館へと造っていったといいます。

その外観はお城のごとく見えながら、屋根には彼がモチーフとしてた卵やマネキンが載っています。
展示では彼の代表作が見られるのはもちろん、ただ作品を並べるだけではなく、見る場所によってまったく違ったものに見えるトリックアートの手法が取り入れられるなど、人を驚かせることが好きなダリらしさが詰まっています。

建物の中には広く、天井が高いホールがあります。「舞台」の上には、一面に大きなダリの絵。足下に目をやるとレンガ調の床。そしてその中央の一部分だけが長方形でグレーになっています。
そこがまさにダリのお墓。この石の下に遺体が埋葬されているといいます。

「自分の美術館がお墓」。
たとえば日本でそれをやろうと思ったとしても、現在の法律上、墓地以外の場所にお墓を造ることは難しいことになります。海外においても他の著名な画家や芸術家でそうした例は聞いたことがなく、きわめて珍しいといえるのではないでしょうか。

実は、ダリにはもう一つ、用意した墓がありました。
生前、ダリはガラのためにスペインのカタローニャ州にあるプボル城を購入し、プレゼントしました。この城の地下には、大きな2つの石が並べられています。ダリが準備したガラと自分のお墓ですが、現在そこに埋葬されているのはガラだけです。

「自分の作品に囲まれて眠る」とは何とも羨ましく、傍から見れば芸術家にとっての誉れのようにも思いますが、「大好きな人の隣」という場所もあった。その選択に迷いはなかったか、チョット気になるところです。

柿ノ木坂ケイ
 

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。