“お盆玉”から考える ~ビジネスと風習、日本人~

“お盆玉”から考える
~ビジネスと風習、日本人~


先日、とあるショッピングモールのチラシで「お盆玉」という言葉を目にしました。その横には「夏の福袋」とあって、飲食店などの商品詰め合わせがいくつか掲載されていました。
 
早速この聞き慣れない言葉を検索してみると、どうやら「お盆玉」というポチ袋が発祥のよう。
 
それを最初に商品化したのは、紙製品や産業包装用品の製造・販売を行っている山梨県のマルアイという会社でした。
そのウェブサイトを見ると、ヨットなど夏らしいデザインのものや、金箔を使った豪華タイプのお盆玉袋が紹介されていました。
そして「お盆に田舎に帰省した子どもや孫、また祖父母にお小遣いをあげるという新しい習慣を広げる為に、2010年より夏の風物詩をデザイしたポチ袋を『お盆玉』として販売を始めました。『お盆玉』の名称はマルアイが作った造語で、商標登録されています」との説明がありました。
 
これまでその存在に気づきませんでしたが、その、夏のお小遣い用ポチ袋はすでに7年前から売り出されていました。また2014年からは全国の郵便局で取り扱いが始まっているとのこと。関連ショップなどにも販路を広げているようです。
 
いわば業界が言い出しっぺとなり仕掛けがスタート、何年後かに認知度をあげていくという流れで思い浮かべるのは、今や日本の年中行事として定着しているバレンタインデーです。
 
「バレンタイン」はキリスト教司祭の名前です。3世紀に殉教した、その2月14日が聖バレンタインデーとして男女が愛の告白をする日となっていきました。
 
一方、日本では、神戸のモロゾフ洋菓子店が外国人向け英字新聞に「バレンタインチョコ」の広告を出したのが1936年。
1958年にはメリーチョコレートが新宿の伊勢丹で「バレンタインセール」というキャンペーンを行いました。
その後、主に女性から男性にチョコレートを贈るという習慣が広まったのは1970年頃より(日本チョコレート・ココア協会)といいますから、それなりの年数がかかっています。
 
「お盆玉」もまた、専用のポチ袋が商品化されたことにより、年月をかけて子どもたちがお盆の時期にお小遣いをもらう機会を増やしていくのでしょうか。
 
ところで株式会社マルアイでは、「お盆玉」という言葉を自社の造語としていますが、その語源になったのはやはり「お年玉」でしょう。現在ではお正月、子どもたちにあげるお金のことをいいますが、「お年玉」の「年玉」とは何を指しているかご存じでしょうか。
 
「年玉」とは元来、年(歳)神様へのお供えを人間が分け頂くもののことをいいました。一番わかりやすい例で言えばお正月の鏡餅です。
神棚に供えた鏡餅を下ろして、野菜などと煮込んだ雑煮を頂く。そのことで、新しい年を迎えるエネルギーを得ると考えられていたんですね。
民俗学的にいえば、年玉の「玉」は「魂(たましい)」です。
古来よりお餅というのは霊的力を持つ食べ物として、お正月だけではなく、婚礼やお葬式などの節目にも登場してきたわけです。
 
また室町時代になると、新年に贈答する品のことを「年玉」とするようになります。刀や銭を持参し、またそのお返しに扇などをもらったという史料があります。
現在のようにお正月に渡す子どもへのお小遣いとなったのは、戦後になってからともみられています。
 
元々は餅=「神様から分け与えられる霊的力の象徴」だったものが品物となり、近年は現金に。「お年玉」から派生したお盆玉もまたしかり―。
「年玉」の原点に戻ろうとは言いませんが、その変化をたどってみると、何か私たちの価値観というものを突き付けられているような気持ちにもなります。
 
それはさておき、お盆玉を検索してみると、解説するサイトでみられたのが「相場」の項目でした。
例えば「小学生1000円~3000円」「中学生3000円~5000円」とか「お年玉よりはやや少なめである」などとするところもありました。
金額はそれぞれ違っていいと思うのですが、周囲と足並みをそろえて行動する傾向は日本人の特徴として指摘されるところ。「他の人がどれくらい包んでいるか」を気にする人がいるということでしょう。
 
「今、夏にもお小遣いをあげるんだって」「他の人も渡しているならウチもそうしよう」といった横並び意識が後押しして、いつの間にか風習化していく―。お盆玉が広く一般化するかはわかりませんが、そんな先行きがあるのかも、などと想像してしまいました。
 
柿ノ木坂ケイ

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。