アートストーン作家

2018年7月17日

世界で評価されるアートストーン作家は、石材店さん

河原に落ちているような、ごく普通の石にファスナーが付いている。そこから覗くのは「歯」。石の中の顔が笑っているのか、石が持つ顔なのか―。
そんなことを考えさせられる、あるストーンアートの個展を訪ねました。

他にも、石のファスナーの中からコインやガラス玉が現れる作品。「白い棒アイスが溶けている」ように見えるけれど、実は石で出来ているという作品なども展示されています。

これら遊び心のある作品をつくる伊藤博敏さん(57歳)は、長野県松本市の歴史ある石材店の5代目として、墓石や石碑、灯籠などの設置・施行に携わる方でもあります。
東京芸術大学美術学部工芸科で金属加工を学んだ伊藤さんは、卒業と同時に松本に戻り、家業を継ぎつつも作家活動を続けてきたそうです。

作品は、日本で数々の賞を受け、ボストンやニューヨーク、オーストラリア、フランスと世界各国のギャラリーから招かれ個展を開いているといいます。

「仕事の終わる5時以降が制作の時間です。気分的には石材店の仕事8割、個人の活動2割でしょうか。ほぼ24時間営業といった感じです」と伊藤さん。
石材店の仕事をしながらも、単なる趣味の範囲に留まらない芸術作品を生み出すというのは、やはり簡単なことではないようです。

また仕事と作家活動の関係を質問すると、切り替えはありながら、どちらも「上手に裏切ること」を課題にしているという答え。

「作品の方でいえば『どうやって人の予想を裏切るのか』ということが常にテーマとしてあります」
確かに伊藤さんの作品には、「○○とはこういうもの」というような見ている側の思い込みを裏切る、サプライズがあります。
では仕事上での「上手に裏切る」とはどういうことなのでしょう。

「たとえば以前、『お爺ちゃんは私に黙ってバイクを物置に隠していたのよ。それが1台どころじゃなくて」と話すお婆ちゃんがいて。私から『お墓の花立てにオリジナルな彫りを入れますよ』と話していたら、最終的に『じゃあバイクを』というオーダーなったり(笑)」

お墓の注文が来れば依頼主の話を聞き、意向を把握した上で「こういうこともできる」という、専門家ならではの提案をしているといいます。

「子どもの頃から、自分でつくったもので人に面白がってもらうことが好きでした。そこは今も変わらず、相手が笑ってくれると『やった!』となりますね」と話す伊藤さん。
石材業と創作。両者に違いはありながらも、「人を喜ばせることが原点」という共通項があるようです。

ところで個展にお邪魔して気づいたのは、訪れた人が伊藤さんに話しかけると、実に気さくに受け答えしていること。いかにも「芸術家」然と構えていない、その姿が印象的でした。
そのことを尋ねてみるとこんな答えが返ってきました。

「石材店の仕事は〝死〟と結びついていることが大きいかもしれませんね。改葬の依頼があれば、遺骨を掘り出すところからやりますから。そういう仕事をしていると『どんな人でも最後はお骨になる。皆一緒』と思いますし、上から目線で語るくだらなさというのは感じます」

お話しを聞きながら、12年前に経験した義母の火葬を思い出しました。
「人間はいずれ骨になる。生きているうちにやるべきことをやっておこう」。手元に残った遺骨を前に、私はそんなことを考えました。

一方、仕事で改葬(=お墓の引っ越し)を請け負う伊藤さんは、身内に限らず不特定の方の骨を目の当たりにしてきたが故に、謙虚な意識を持つようになったという興味深いお話しもありました。

最後にこれからの活動について尋ねると、「お墓も作品も長く残るもの。これからもなるべく沢山の人に喜んでもらうために、後世に残る上手な嘘をつき続けるのかな」と、微笑みながら答えた伊藤さんでした。

柿ノ木坂ケイ

〈伊藤博敏さんの作品などについて〉

ブログ『自遊石雑記』
http://scrap.jiyuseki.com/

〈展示会〉 

○「堅物の憂鬱」 10月27日(火)~11月8日(日)○
〒337-0001 埼玉県さいたま市見沼区丸ヶ崎1856
カフェ&ギャラリー 温々(ぬくぬく)