水葬も火葬も簡単じゃない?

ご存知のように、世界には「土葬」「火葬」「風葬」「水葬」などの葬法があります。
国によって、民族によって、あるいは信仰する宗教によっても良しとする葬法が変わってきます。

イスラム教徒は死者を土葬します。
火葬は地獄に堕ちた者への神の処罰と考えられているといいます。

そのため、例えばイランでは「お前の父親は火葬された」というのは相手を侮辱する最たる言葉になるそうです。その人を指して、アッラーの教えに背いた悪人の子供だという意味になるからです。

そんなイスラム教徒の一人の葬法が、今年、物議をかもし出しました。

5月、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを殺害した米軍部隊は、翌日その遺体をアラビア海に流しました。―「水葬」です。

米政府としては、イスラム教徒が嫌う火葬は避けてのことだったのでしょう。どちらにしろ、ビンラディン容疑者を埋葬した場所が聖地化することを防ぐ意図があったとみられます。
海であれば、その場所を特定することは難しくなります。

ところが殺害からすぐに遺体が葬られ、映像などの公開もなかったことから、「ビンラディンは死んでいない」「米国の陰謀」などの声がアメリカ内外から上がりました。
また、イスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルも「イスラムとは相いれない」と、この水葬を批判する声明を発表しました。

米政府の思惑から選択された「水葬」は、いくらテロの容疑者とはいえ反発は免れなかったのです。

儒教的考えから伝統的に土葬を良しとしてきた中国では、1956年、毛沢東が火葬の導入を打ち出します。
棺の材料となる森林保護のため、また今後の埋葬地の不足を見越してのことでした。

1985年には、火葬を推進し、封建的・迷信的な葬送習俗を廃止する旨の規定を発布します。
その結果、1982年には全体で15%だった火葬率は徐々に上がり、2009年は48.2%となりました。

ただし都市部では火葬率が高くても、地方ではまだまだ政府の方針が受け入れられていない傾向があるといいます。

これまで、「1回土葬した墓を掘り起こして火葬しようとした地方行政に村民が抗議。武装警察数百人に弾圧され」たり(09年・広東省)、取締の目を欺く目的で、「ひそかに身内を土葬して、身代わりを火葬するため死体の売買が行われていた」(08年・広東省)などの事件が報道されています。

毛沢東の火葬宣言から半世紀あまり。法を制して葬法を変えようと試みたものの、今だ全体の半数程度に止まっているともいえます。

中国では、特に高齢者が火葬への抵抗が強いと言われています。幼い頃からそれがベストだと教えられ、実際に肉親が土葬で弔われる様子を目にしてきたからでしょう。

どんな権力であっても、時間をかけて根付いてきた風習を一朝一夕に方向転換することはできません。上から押さえつけることで、現状と人々の意識を左右することは簡単なことではないのです。

水葬も火葬も簡単じゃない?()

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。