この夏出会った2つの「お経」

なんだか本モノに触れたい気分になり、先月から始まった『空海と密教美術展』(東京国立博物館)に行ってきました。

1時間ほど見学して出口の方に戻ると、「日本考古展」の案内が。もう一つの特別展のようです。

入ってみると、昔、学校の教科書で見ていた埴輪や銅鐸(こんなに大きなものがあるとは!)が普通にボコボコ目の前に現われます。
空海の方はあんなに人が溢れていたのに、こちらは私と外国人のカップルだけでもったいない気がします。

その中に「56億7000万年のタイムカプセル」というタイトルで、〝経塚〟なるものが紹介されていました。

以下、博物館の解説する経塚です。(一部要約)
「釈迦の死後2000年経つと、いくら修行をしても悟りが得られず正しい行いさえできない世=末法が訪れる。末法の世に仏教は衰えてしまうが、56億7000万年後に弥勒如来が現われて説法し、再び仏教の栄える時代が来ると信じられていた。
しかしその時にお経がないといけないため、紙に書いた法華経を容器に入れ、地下に造った石室に納めるなどした」

経塚は仏教を先々に蘇らせるための、正にタイムカプセルのようです。

紙の写経は、銅や陶器でできた〝経筒〟に納められました。長期保存を考えて瓦や銅板に刻字したもの、石、貝殻の内側に文字を書いたものもあります。

経塚は平安時代後期に盛んでしたが、次第に、それを造営することによって現世利益を求める傾向が高まっていったといいます。

それにしても手が込んでいます。暇もお金もかかっています。
それは『密教美術展』で見た、空海指導のもとに造られた曼荼羅や仏像にもいえることです。持っている知識と技術のすべてをそこに注ぎ込む。
それだけこの時代、仏教は価値があり、「お経」も貴ばれていたということでしょう。

経塚の展示を見ながら、最近、葬儀社の方がこんなことを漏らしていたのを思い出しました。
「自分が僧侶の資格を取って、お葬式の際、希望する方にお経をあげてもいいと考えている」
喪家にお布施をいただこう、ということではないようです。
「今、お葬式は仏式が多いですが、本当に信仰を持っている人は少ない。むしろ、とりあえず式でお経があればいい、という認識の方が多い。だったら、私でもできますがやりましょうか?ということで充分だと思う」

「仏教を後世まで残したい」と熱い想いを持った人がいた時代から1000年余り。その教えを説いたお経は今や、お葬式のBGM程度の存在でしょうか。

今日、ここに訪れた大勢の人は何を求めてきたのだろう。
「歴史ある仏像や曼荼羅を見たい」
「仏教の根源に触れたい」
でも、自分たちの生活の中にある仏教とは完全に切り離して見ている。―そんな感じなのかも。

閉館時間を迎え、続々と帰途につき始めた人たちの中でそんなことを考えていました。

この夏出会った2つの「お経」()

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。