未曾有の事態を前に

先月11日、マグニチュード9.0、観測史上世界4番目という凄まじい地震が起きました。

あれから3週間が経った今でも、新聞紙上には死亡が確認された方々のお名前が書き連ねられているなど、まだ被害の全容さえはっきり見えていません。
気分が重くなりがちな中、前線で復興にあたる方々や海外から駆けつけてくれる救援隊、日本各地からのボランティアの活躍に勇気づけらているのは、現地の人だけではないように思います。

地震が起きて1週間後のラジオ番組で、被災地となった宮城県のある温泉地のホテルが取り上げられていました。
そこが、復興支援で他県から来る人々の宿泊施設となっているというリポートでした。

この温泉は湯の温度が高く、普段は水を足していますが、断水のため「温泉」としての営業はできません。
ただ、経営者は「助けに来てくれた人を助けなくていいのか」と考え、倒壊を免れた建物を、支援者のための宿泊施設として提供することにしたといいます。

多くの家が損害を受けた地域で、外から来た人が避難民の方々の安全な場所を奪うことはできません。
現地でのボランティアを希望する場合には、「宿泊施設の確保が自力でできる人」という条件が付いていることがほとんどです。

ホテルの経営者は、子供の頃大きな地震を経験したそうです。その時、近くの温泉が被災者である自分たちに開放してくれたことを、はっきりと記憶しているといいます。
「今度は自分の番。そして、『こういうことができるんだ』ということを街の若い人に伝えていきたい」と話しているそうです。

日本には〝恩送り〟という言葉があります。
広辞苑や辞書には載っていませんが、江戸時代には一般的に使われていたといいます。(『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』参照)

「恩返し」は、恩を受けた人に対し、直接その恩を返すという意味です。
一方、「恩送り」は、恩をいただいた人に限定されることなく、他の誰かに送ります。受けた人は、また別な人へ〝恩〟を送る。
「人のために」という働きかけが、次々と無限に広がっていくわけです。

「恩返し」というと、少し身構えてしまうようなところがあります。また「親孝行したいときに親はなし」などというように、恩を返したくてもそれを墓場まで持っていくしかない場合もあります。
けれど、「恩送り」はいつでも、誰にでも渡していくことができます。

地震を境に私たちの生活環境は変化しました。
家を失った人、家族を亡くした人が大勢います。
直接の被害は受けなくても、東日本を中心に停電や電車の不通、放射能漏れへの警戒と、先が見えない状況が続いています。

「1000年に1度」という大地震が招いた事態を目の当たりにして、人間の、そして自分の無力さを強く思い知らされる一方、こんな時だからこそ一人一人の力がいい循環を生むこともまた学び得ています。

未曾有の事態を前に()

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。