火葬研究協会 武田至先生に聞く その2. ~死を受容する場~

火葬場について調査・研究し、行政へのアドバイスも行っている武田至先生*はどのような観点から火葬場を見ているのだろう?

良い火葬場か、悪い火葬場かというのは、会葬者がゆっくり故人とお別れできるかどうかで分れます。
火葬場へ何をしに行くかというと、故人とお別れに行くんです。まず炉に入ることころを見て、その後骨を拾うことによって、その人が亡くなったことを受け入れる。つまり「死」を受容する場所だと思うんですね。

葬儀を通してその人が亡くなったということを受け入れる人もいますが、生身のご遺体が焼かれて骨に変わることで、その人がもう帰ってこないと実感する方は多いんです。
ですから、火葬炉の前で「入れないでくれ」とか、柩にしがみついたりですとかそういう行為が見られても、骨を拾う段階になると、なにか吹っ切れた様子で、ということは多々起こります。

ある意味残酷かもしれないけど、遺体を焼くことで、「その人はもう帰ってこない」ということを受け入れさせる場所なのです。


「お別れの場」というと葬儀をイメージしていたけれど、火葬場は実質的にそういう大切な役割を担っていたとは今まで意識していなかった。

そういう意味から考えますと、日本の火葬場というのは何が大事かというと「ご遺体が炉に入るところを見る」ことと、「骨を拾う」ことなんです。
ところが、遺族に、炉に入るところを確認させない火葬場があるんですよ。

昭和12年(1937)に出来た瑞江葬儀所は、当時の東京市の公園課長、井下清が考案しました。その前にヨーロッパの火葬場を視察して、炉前に人を入れないと混雑もせず非常に静かでいい、ということで、参考にしたんです。
欧米では礼拝堂でお別れした後は、遺体が炉に入るところは見ないんですよ、基本的に。
それは日本とは逆の文化であるにも関わらず、瑞江では炉前に入れる人数を3人に制限してしまったんですね。
そうなるといくら遺族の要望があっても、日本では「決まりですからダメです」という具合に一点張りになりがちです。しかも建物が、最初からそういう造りになっていて対応が難しい。

ここだけではなく、炉をズラーッと横一列に並べたために、危険だとか作業効率が悪いといって炉前に人を全く入れないようにしたり、「他の会葬者の迷惑になる」として読経を禁止するところもあります。
そういうことで、きちんとお別れが出来る施設になっていない火葬場もかなり多いんです。


祖母の火葬でのこと。拾骨の際、火葬炉の前を何組かの会葬者が行き交い、ワサワサ落ち着かなかった状況を思い出した。
なぜ遺族の心情を軽んじるような火葬場が造られてしまうんでしょうか?

炉前ホールを分けて個別化したところや、その地域の風習を踏まえた設計も見られます。
ただ、火葬はその歴史的背景から別な捉え方もされてきたんです。

ちょっと逆上りますが、明治政府は江戸幕府を否定してできたものですよね。その官僚が、「江戸幕府と密接な関係があった仏教は火葬をやっている→だから火葬は悪い」ということで、火葬を全面的に禁止するんですよ、明治6年に。それで郊外に墓地を造ったりもしましたが、埋葬場所が足りないという事態になって、結局2年後には火葬を再開せざるを得なかったんですね。
またコレラの流行があって、法律で伝染病者の火葬が義務づけられます。それまで土葬だったところでも、伝染病対策の火葬場がどんどん造られました。

つまりこの時代から、行政にとって火葬場は、伝染病・感染症を蔓延させないための衛生施設なんですね。法律上でも衛生処理施設として扱われる一方、遺族のニーズというものがある。日本の火葬場ではそのギャップが大きいわけです。
また火葬は宗教に関係しますから、役所はそこの部分にあまり踏み込みたくないということがありますね。


いくつか見せていただいた中には、死を受け入れる場所としてふさわしい、魅力ある施設もあった。今、生前に自分の葬儀のやり方を決めておく人は増えているけれど、もう一つの“お別れの場”、火葬場に目を向けてみるのもいいのではと感じた。

*一級建築士・博士(工学)。東京電機大学大学院終了。火葬炉メーカーにて火葬場の計画から火葬炉の設計施工などを担当。その後、社団法人日本環境斎苑協会の研究員を経て、平成11年6月に火葬研究協会設立、理事に就任。先月、『弔ふ建築-終の空間としての火葬場』(共著)を刊行。
「弔ふ建築-終の空間としての火葬場」
日本建築学会編 鹿島出版会発行
チベットの天葬からアスプルンド、スカルパまで、世界の葬送の風景を解説し、日本の風土と現代の良質な施設、その計画・設計・運営を紹介。死と向きあう聖なる場を考える。

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。