あなたのお墓にどんな文字を刻みますか?

2008年の世相を表す漢字「変」を使う人は、たぶんいないだろう。2007年の「偽」もちょっとムリ。・・・お墓参りに出掛けた霊園で、すっかり満杯になったお墓たちを見ながらそんなことを考えていた。

ここは、4年程前にウチのお墓を購入した民営霊園。
一昔前はごく一般的だった、「○○家」や「先祖代々之墓」と入れたお墓もあるけど、「愛」「心」「感謝」など漢字1、2文字のものが目に付く。
試しに数えてみたら、周辺の30基のお墓のうち16基が後者の部類だった。ちなみにうち4基しかなった和型のお墓はすべて「○○家之墓」と入っていて、従来の縦型タイプはやはりこの文字が納まりがいいようだ。

全体を見渡せば、「Eternally Together」「GRACE」など英語バージョンも珍しくない。中には、書家・詩人である相田みつを氏の「しあわせは いつもじぶんのこころがきめる」が文字もそっくりに刻まれていて、著作権は大丈夫だろうかと気にかかる。

お墓に刻む文字、“墓碑銘”として家名を入れるようになったのは、明治民法施行後、お墓は代々その家で引き継ぐものという意識が高まってからのことで、意外にその歴史は浅い。
それが今日のように文字が多様化したのは、核家族化、少子化で、必ずしもお墓をうまく継承できなくなってきたという事情も理由の一つだ。例えば一人っ子同士が結婚し、それぞれが継いだお墓を一つにしてなどという「両家墓」の場合でも、2つの家名を入れるのではなく、まったく無関係な文字が選択されたりする。

園内をブラブラと歩きながら、フランスの作家スタンダールの墓碑「書いた 愛した 生きた」のような、その人の生涯を表現したタイプはないかと探してみるが、これというものが見当たらない。
「ありがとう また来てね」というお墓参りに訪れた人へのねぎらい言葉や、「自然を愛し この丘に眠る」のような字句はある。「誠」「慈悲」などの漢字は、故人やその家のモットーやらメッセージを表しているのかもしれないけど、もっと強く、一人の人間の生き様のようなものを打ち出した言葉は、見付けられなかった。
個人のお墓が少ない。墓碑銘の歴史。穏やかな国民性。理由は様々考えられそうだ。

スタンダールにも対抗できる日本人の例として思い浮かべるのは、村上春樹氏が著書『走ることについて語るときに僕の語ること』で記している、自らが希望する墓碑銘だ。(p.233)

    村上春樹
    作家(そしてランナー)
    1949-20**
    少なくとも最後まで歩かなかった

「少なくとも最後まで歩かなかった」。小説家を本業としてやっていくための体調維持の手段として、日々走ることを始め、現在も作家として、ランナーとして走り続けている村上氏の生き方を伝えるものだ。

霊園のベンチに座りながら、ふと、仮に自分個人のお墓を建てるとしたら、どんな文字を刻むだろうと考えた。
村上氏流に言えばせいぜい、「最後まで歩き続けた」か。いや、「歩き続けて」いるのかな?…しばし考え込んでいると夫が話しかけてきたので、この問題をふってみた。
「そうだね。『三歩進んで二歩下がる』ってところじゃない?ふふっ」とのたまった。若干不満は残るが、一歩ずつ進むなら良しとしようか。

あれこれ思案しながら、「自分の墓碑銘を考えてみる」など、一見縁起でもないことのようだが、案外、これまでの、そして今の自分を見つめ直し、さらにはこれからの人生を考える機会になるのだなと思い至った。

あなたのお墓にどんな文字を刻みますか?()

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。