おくりびとと私たちのコレカラ

映画『おくりびと』を見た。
チェロ奏者だった主人公がその職を失い、故郷で納棺師という仕事に携わっていくというストーリー。9月中旬からロングラン上映されている。

この映画の中で主人公を演じる本木雅弘の、納棺師としての所作の美しさが話題の一つとなっているようだ。布団に横たわる故人の体を拭き、硬直した体を手で温めながらほぐし死装束を着せる。故人が男性ならひげを剃り、女性ならば化粧を施しひつぎ棺に納める。
本物の納棺師に手ほどきを受けたという一連の動作は、死装束を遺族に向け広げてみせるところなど一部仰々しさもありながら、遺体の触れ方に死者への敬意が感じられるものだった。見ている側としてもなぜかそんな場面に心が温かくなった。

そんな折、「トラブル急増・・・お葬式」と題したTV番組が目に付いた(フジテレビ『スパイスTVどーもキニナル!』10/31放送)。
放送の中で“最初のトラップ”として紹介されたのは、葬儀社からの見積りが当初150万円だったのに、実際の請求が200万円でビックリ!という事例だった。

解説によれば、「葬儀見積り一式」に計上されるのは祭壇・棺・人件費などだけで(葬儀社によっても異なる)、「料理代」「香典返し」「僧侶に渡されるお布施」が入っていないためその差額が請求されたらしい。

お布施代はともかく、「会葬者が何人来れば、これくらい料理代が加算される」等の説明が最初にあってもいい。身内の死で混乱している遺族だからこそより丁寧に。
「『葬儀一式』にはAとCは入れても、Bは含まないのがわが社のやり方です」などと後から言われてもダマされたとしか思えないだろう。第一、見積りと請求金額が違うなんて普通の買い物ではなかなか考えられない。
どちらにしても、番組が使った“トラップ=罠”という言葉が、葬儀社と私たちの深いミゾを表している。

国民生活センターによれば、2007年度に全国の消費生活センターに寄せられた葬儀サービスに対する苦情・相談件数が384件に上ったという。03年度187件のほぼ2倍。その7割が、契約・解約に関するものだという。
残念ながら番組で放送されていたようなことは起きているようだ。

そんなトラブルが招く不安と不信、そして人を葬る仕事への蔑視。
映画『おくりびと』は、現実社会にも確かに存在する、後者の視点を描き出す。

「ましな仕事につけ」。納棺の仕事を始めた主人公に、友人が冷たく言い放つ。
「この人みたいな仕事をして償うのか」。バイクの2人乗りで死んだ娘の葬儀で、父親が、生き残った男にぶつける言葉。
身につまされる場面だった。
死をけが穢れと感じ、そこに携わる人を特別視する。それは映画の中だけの話ではない。世間にも、そして自分にもそんな見方があることに気づかされる。

『おくりびと』の主人公も、最初はこの仕事へと踏み出すのに躊躇する。それが納棺師の会社社長(山崎努)の仕事ぶりを目の当たりにして、いくつかの現場を経験して次第に変わっていく。誇りのようなものさえ生まれるほどに。
そんな主人公とともに、映画の進行とともに、自分の中の意識も徐々に払拭されていくようだった。

「お葬式」という、故人の一生を締めくくる大事なセレモニーには、請け負う葬儀社と依頼する側との信頼関係が必要。そんなことも改めて考えさせられた作品だった。

おくりびとと私たちのコレカラ()

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。