最近、霊柩車を見かけましたか?

先日、東京郊外にできた新しい斎場の見学会に行ってみた。駅から10km程。ガラス張りの外観は美術館のようでもある。さっそく入り口に置かれていた利用案内を手に取ると、注意事項の中の「宮型霊柩車の乗り入れはできません」の一文が目に留まった。

改装、新設される火葬場や斎場ではこの禁止事項が盛り込まれることが多い。全国霊柩自動車協会によれば、宮型霊柩車を締め出している火葬場は24都府県、約150ヶ所はあるという。(朝日新聞2008.3.29)
火葬場が建設される場合、特に住宅地が近ければ必ずと言っていいほど反対運動が起こる。その理由の一つ、「縁起が悪いこと」を払拭するため、死者を乗せていることが明確な車を禁止し、住民の同意を得ることになる。

宮型霊柩車を厭うのは火葬場周辺の人々だけではない。葬儀を行う遺族がこの車を選択しなくなっている。

お神輿のようなものを載せた黒塗りの車。宮型霊柩車が生まれたのは昭和初期、1920年代といわれている。

さかのぼること明治時代。士農工商の身分制度が崩壊し、葬儀についても特に縛りがなくなると次第に派手になっていく。それは葬列に顕著だった。
輿(こし)と呼ばれる担ぐ棺、遺族、会葬者、僧侶が複数、奉公人や看護婦までもが加わった。これに普通規模の葬儀でも提灯や花、鳥かご(鳥は故人の魂を運ぶ、として放たれる)、さまざまな葬具を手にした人たち、道行く人に配る供養菓子を積んだ荷車が続く。
写真を見ると、参加者や持ち物が違うだけで、ほとんどにぎやかな大名行列といった感じ。この時代の葬列は見物客が出るほど「パレード」化し、著名人などの盛大なものともなれば、沿道の店が人々から見物料を取っていたという。

ところが大正に入ると、この大掛かりな葬列が廃れていく。
人力車、馬車、路面電車。都市の交通機関の発達は、行列のスムーズな運行を妨げるようになる。また都市圏が拡がり、葬祭場まで歩くことが困難となる。

そこで現れたのが、霊柩車だった。葬列よりはコストがかからず、時間も節約する合理的、かつ画期的な方法を可能にしたのだ。
こうして大正初期に生まれた“霊柩車”はしかし、「死者を運ぶ」特別な役割はあっても、見た目は普通の車だった。これが、現在のような装飾された“宮型霊柩車”へと移行していく。

宮型霊柩車をわかりやすく言えば、自動車に輿を載せたもの。ただ、それまで使われていた輿はごくシンプルな造りだった。しかも最初はただの外国産の車だったものが、日本ならでは、といった独特の形状へと変貌する。
その歴史に詳しい『霊柩車の誕生』の著者、井上章一氏は、このいきさつを次のように推論する。当時はまだ、明治における「にぎやかな葬列への未練」が残っていたこと。そして、「死体を自動車で運搬するという過激な近代主義にも抵抗はあった。そこで自動車には葬列を暗示させるにぎやかな装飾がほどこされて」いったのであろうと。

この考え方からすれば、豪華で派手なこの車の飾りは、明治時代の葬列の投影だ。いわば宮型霊柩車は、この時代に引き継がれ、花開いた葬送文化を車という装置に集約させたもの―。
そう考えると、今日の嫌われようは残念にも思えてくる。

誕生から80年あまり。宮型霊柩車の表す葬儀や死。それが身近に出没することを拒み、隠そうとする傾向。私たちの意識が変わったのだろう。

宮型に代わって需要が増えているのは“バン型”“洋型”と呼ばれる、飾りのない霊柩車だ。バンタイプはもちろん、ちょっと長めの外車は違和感なく街に溶け込む。死者を乗せていることを示すこともなく、車も死も日常に紛れていく。

最近、霊柩車を見かけましたか?()

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。