僧侶と仏教は葬儀だけのものですか?

「お坊さんと接するのは、お葬式と法事の時だけ」。そんな多くの人に向けたイベント、『東京ボーズコレクション』(07年12月15日)に出掛けてみた。
8宗派の僧侶たちが、自分たちや仏教を知ってもらおう、より親しんでもらおうと企画したという。自らを「ボーズ(=坊主)」と呼んでいるところに、程よい開き加減を感じる。

会場となる築地本願寺の敷地に、展示や物販のためのテントがいくつも並んでいる。物販といっても、国際ボランティア団体のものやフェアトレード系、そして仏具店なのが“仏教イベント”ならでは。
インドを思わせる独特の建物内では、現役僧侶とラップ&芝居のコラボレーションライブだったり、有名人による法話だったり、仏教初心者向けの多彩なプログラムが進行している。

あちこち顔を出しては立ち去ってとウロウロし、頭が混乱してきた頃、ふと「仏教相談センター」というのぼりが目に入った。本堂脇で日陰になったそのテント内は2つに仕切られ、テーブルが置かれている。そこにお坊さんが待機しているものの今は相談者がいないようだ。「プチ修行」は混雑しているみたいだし、こっちへ入ってみよう。

「あのー、相談よろしいでしょうか?」「どうぞこちらへ」。
見た感じ50代でうらなり顔のお坊さん。頭は剃っていないから浄土真宗?
「えーっと人生相談というか、人とあまり深く関われない気がしまして」「そんな自分がイヤなの?」「イヤというより、これでいいのかな、と・・・」「それは子供の頃から?」穏やかに、だけど矢継ぎ早に聞いてくる。
「いえ、子供の頃は全然そんなことなかったんですが、30過ぎてでしょうか」「ご主人はあなたのこと、なんていうの?」「内弁慶って言われてます」・・・少し間が空いた。そろそろ答えが出るはず。

「そうねぇ、難しいよね」。えっ解決してくれるんじゃないの?そんなこちらの心を見透かしたようにお坊さんは続けた。「私があなたに強く明るく人に接しなさい、と言ってもできないでしょ?できない自分を無理すると苦しいよ」。
―ごもっともです。でも、“仏教相談”だから教義でも説くのかと思っていて、ちょっと拍子抜けした。

「親しい友達が近くにいなければ寂しいだろうけど、たとえば裏切られれば腹が立つだろうし、裏切るのもイヤでしょ?」「そ、そうですね」「いくらわかり合うっていってもズケズケ心の中まで入ってこられる危険性もあるよ」と、ここで一瞬私の目を鋭く見ると、突如切り込んできた。
「あなた、人のペースに巻き込まれるのは嫌いでしょ?」
うわーっ、ズバリです!当たってます!最近ますますそんな性質が強くなっているのか、自分で自分に手こずることしばしば。これが仏教界に属するものの眼力かどうかは不明だけど、言い当てられてしまった。

それから話は私の幼少時代までさかのぼり、その人間関係をひも解くのだった。気がつけば小1時間が過ぎようとしていた。その長い話の中で“仏教”という言葉が出てきたのは一度だけだった。
「人間というのは複雑に絡み合っていて、その中で自分の歩みを進めていくの。仏教の中心的な考え方で『縁起*』っていうんだけど。さまざまな因縁が重なって今の自分がいる。その縁のなかでの生きざまだから」。

そういえばイベントのパンフにも「縁」や「縁起」について書かれていた。その部分は字面として目で追ってはいた。けれどもわが身の話を聞いてもらう中で出たからなのか、この時初めてその意味が入ってきた。
相談というよりカウンセリングを受けたような、スッキリとした気分だった。

もう日が暮れ始めていた。そろそろイベントも終了だ。帰ろうとして、あるブースで売られている数珠に目がいった。カラフルな紐でつながれていてブレスレットに良いかも、と手を伸ばしかけてやめた。やっぱり数珠はアクセサリーではなく、仏教徒が身につけるもの、という気がした。
この半日、仏教と触れることはできた。そのほんの一部に、わずかだけ。
代わりにスリランカ・カレーの素を買った。結局、物欲というか食欲に走ってしまったけれど、今夜はこのカレーを作って、今日見聞きしたことを夫に話してみよう。

*縁起〔えんぎ〕:因縁生起の意。すべてのもの・ことは、さまざまな原因(因)と条件(縁)が互いに関係し成り立っているとする、仏教の重要な教えの一つ。「縁起がよい(悪い)」というのは、吉凶をこうした因縁関係から見い出す考え方から生まれた表現。

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柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。