中国の散骨事情と劉暁波氏のお墓

中国の散骨事情と劉暁波氏のお墓

昨年12月、上海市に中国初の昇降式納骨堂なるものがお目見えしました。
ロッカーのように区分けされた納骨ユニットは、納骨などの際、地上に現れ、その後はまた地下に降りていきます。日本では見られないタイプですが、中国の人々の死生観には合っているといいます。
 
また同じ敷地に一般的なお墓を造った場合は700基程度にとどまるところ、納骨堂にしたことで、全部で9600基の納骨スペースを設けることができたそうです。
 
「中国のお墓」といえば立派な柩で土葬、その埋葬にはかなり面積を使ったものがイメージされますが、このような省スペースタイプの登場にはそれなりの理由があるようです。
 
近年、中国では墓地価格の高騰が問題となっています。
経済発展による不動産価格の値上がりと共に土地不足が影響し、特に北京や上海、広州などの大都市では「お墓が買えない」あるいはお金を持っていても「買える場所がない」といった状況が顕著になっているのです。
 
中国民生部(省)は2016年2月「自然葬の推進に関する指導意見書」なるものを発表しています。
意見書では、墓石の代わりに樹木や花を植える樹木葬や、遺骨を海などに撒く散骨、また納骨堂など立体墓地を選ぶことが推奨されています。
これらの「お墓」は土地を必要としない、あるいは面積を節約できる葬法だからです。
 
同年3月、北京市当局は伝統的な墓地の貸借の廃止、そして樹木葬や散骨などの自然葬の推進を発表しました。今後は公営墓地で新たな墓碑を建てず、東京ドーム9個分の敷地を使った、自然葬のための霊園を造る計画だといいます。
 
国や自治体に、自分たちのお墓の方向性を決められる―。少なくとも日本ではなかなか考えにくいことではあります。
 
日本では『墓地、埋葬等に関する法律』が定められています。
この法律では「埋葬」や「墳墓」といった用語を定義していたり、墓地以外の区域での埋葬の禁止、24時間以内の埋葬または火葬の禁止など一定のルールが決められていますが、たとえば樹木葬といった特定のお墓のスタイルを勧めるものではありません。
一方、中国の主要都市での「土地不足」「それに伴った墓地の高騰」というひっ迫した状況下では、それもやむを得ない施策になるのでしょうか。
 
そんな中国で、最近執り行われたある散骨が国外のメディアにクローズアップされました。
それは先月亡くなったノーベル平和賞受賞者、劉暁波氏の海洋散骨でした。
 
劉暁波氏といえば、2010年の平和賞授賞式には服役中のため出席できず、代理出席が考えられた妻の劉霞さんは自宅軟禁となったことが記憶に新しい出来事でした。
民主活動家の氏は、1989年天安門事件で学生らを支援したとして拘束されて以降も、監視や投獄が繰り返されるなか国内にとどまりました。
 
服役中だった氏は末期の肝臓がんとなり、今年6月に国内の病院に移されていましたが、家族や本人が希望していた海外での治療は最後まで認められませんでした。
そんな病気治療のことと共に中国当局が国際社会から批判を浴びたのは、「お墓」のことでした。
 
7月13日に死去した氏の告別式及び火葬は2日後の15日に行われ、その日のうちに遺骨は海に散骨されました。
 
この散骨について中国当局は「家族の意向」と説明しましたが、ほとんどの海外メディアが政府の指示だったという見解を示しています。
民主化運動のシンボル的存在である氏のお墓を造れば、そこに支持者らが集まる。その場所が「聖地」となることを恐れたのではないかと見ているのです。
 
お墓は、故人と縁があった人が集う場所となります。その人たちが故人をどのように弔いたいかという気持ちが第一に考えられるべきで、上から強制されるというのは、いかにもそぐわないやり方であることは言うまでもありません。
 
そしてもし氏の散骨が奥さんや親族の意向を無視した押しつけであったなら、先述したような行政が打ち出した方針としての散骨推奨とは別の意味を持つことになります。
それは「土地を使わないため」の散骨というより、「遺骨を残さない」「埋葬場所を残さない」ことが意図された手段だったのでしょうか。
 
散骨後、中国当局が開いた記者会見では、氏の親族として唯一、お兄さんが政府や党への感謝を述べました。そこに出席しなかった妻の劉霞氏が、いつか自身の言葉で語る日が来るのか気になるところです。
 
柿ノ木坂ケイ

>柿ノ木坂ケイの「ちょっと気になるお墓の話。」一覧へ戻る

柿ノ木坂ケイ プロフィール

プロフィール

1964年生まれ。東京都立大学人文学部社会学科社会人類学専攻卒。タウン情報誌編集部を経てフリーライター。 3年前義母をなくし、お墓がない現実に直面。購入まで苦労したことがきっかけとなり、意外と知らなかったお墓について調べ、著書『間違いだらけのお墓選び』をまとめる。
現在、「明るくわかりやすくお墓を語る」をモットーに、消費者の立場から見た“お墓”についての講演や関連記事の執筆などで活動中。

【 著書 】

『間違いだらけのお墓選び-買ってわかったお墓事情あれこれ』
2005.11刊/情報センター出版局(1400円+税)

〔第1部:お墓購入ドタバタ体験記〕

年齢も趣味も違う家族が一つのものを買うのは大変なこと。
ましてやそれが“お墓”であればモメるのは当然?!著者と家族の笑える(?)お墓探しの日々を綴る。

〔第2部:お墓に関する49の基礎知識〕

誰もがいつかはお世話なるものなのに、よくわからないもの、それがお墓。その購入の実体験をもとに「これだけは知っておきたい」という知識をまとめた。イラストやフローチャート入りで“初心者”にも楽しくわかりやすく、お墓選びのツボを伝える。